20110122

スニーキープー+α



いくつかの精神疾患は、その昔、”憑依”と考えられていました。結果、その治療は、服薬などではなく、”お払い”になるわけです。苦しみを抱えた人が、お払いによって元気になる。映画やテレビ番組などで、誰もが”お払い”の場面を見たことがあると思います。非常に胡散臭いと思う人も多いでしょうが、その昔、多くの人が実際に”お払い”で救われたという事例は沢山あります。

何を言いたいのかというと、”問題の捉え方”です。医学が進歩した現在、様々な疾患の原因が特定されています。表現を変えれば、原因の内在化が明確になってきた進歩の過程でもあるわけです。反対に、”憑依”、”お払い”の時代、その原因はクライエントの外にありました。問題が外在化されていたわけです。

勿論僕は、精神医学を否定する気持ちなど微塵もありません。僕の到底知りえない高度な医学の進歩から治療方法が選択され、その手段がクライエントに提供されていることを知っています。しかし、問題が自分の中にあると認識するよりも、外にあると認識する方が、クライエントにとって、時として圧倒的に優しいことがあるということです。

人間の精神状態や行動は、それほど”解釈”に左右されると言い換えてもいいのかもしれません。事実は何も変わっていなくても、”解釈”によって、人間は次に取る行動が変化します。否定的状況からは、否定的な感情や解釈が生まれます。肯定的状況からは、前向きな感情や解釈が生まれます。負の循環から肯定的循環への転換を図るためには、解釈を変えることは非常に大きなきっかけとなります。

身体障害に向き合うクライエント。否定的な感情に左右され、自己実現に向けた肯定的循環を作り出せない負の循環に陥っています。様々な面接やコミュニケーションを通して、一時的に肯定的な解釈を作り出すことは可能です。しかし、ナラティブアプローチの弱点は、その解釈が非常に揺るぎやすく、いとも簡単にその解釈が変容しまうということです。

作業療法士は”単なる面接官”ではありません。作業療法士には”作業”があります。新しく生まれた肯定的なナラティブを、より揺ぎ無いものにするための作業行動があります。肯定的な解釈と作業行動による”力強い新しい一歩”をクライエントに感じてもらいたいものです。

どんな人でも、人間は”実現傾向”にあります。自分をより良い状態にシフトしようとする本能が備わっています。だからこそ、そのクライエントの人生がより良いものになるための、人生を彩ってきた・彩る・彩るであろう”意味ある作業”が必要なのです。否定的感情や、機能回復への過度の固執は、自己の意味ある作業に対する視点を盲目にします。クライエントが、その作業の大切さに気付けること、作業ができるようになること。作業ができることによって、自分の人生が再び好きになれること・・・クライエントと向き合う時に、作業療法士はこの3つをいつも大切にすることが使命です。


                                   ADOC:作業選択意思決定支援ソフト







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