20101229

クオリアという贅沢




数日前から突然の大雪!これは先日帰宅する際、職場の駐車場で撮影した僕の車です。雪を掃いたり、窓ガラスの凍結を解凍したり・・・エンジンをかけてから走り出すまでに約20分かかりました。今年は大変だと思い、すぐに長靴や防水の手袋を新調しました。今年は随分と雪かきに時間を費やすことになりそうです。

次の朝、僕はいつもよりも30分早く起床しました。勿論雪かきをしたり、通勤の渋滞を予想しての対策です。まだ暗い駐車場に出て、手袋をはめると、先日職場で雪かきをした時とは違う感覚が僕を包みはじめました・・・

薄紫色の空・・・雪があらゆる音を吸収することによって成される静寂・・・凛とする空気感・・・色々なクオリア(感覚質)が蘇ってきました。

この感覚が僕は大好きなのです。確かに雪の季節は大変ですが、このクオリアを味わえることが楽しみでもあるのです。僕は寒さの厳しさに、少しだけ嬉しい気持ちを加えた複雑な感覚と共に、雪かきを行いました。

人間は、唯一クオリアを感じることのできる動物です。この作業に同居する感覚質を楽しむには、遂行能力に余裕があり、習慣化によって意識を開放できること、この要素が不可欠です。人間は個々の様々な意味ある作業を遂行する時、それぞれの感じ方によるクオリアも含めて作業を楽しんでいるのだと思います。

普段、意味ある作業をクライエントと共有しようとするときに、目の前のクライエントが、その作業を遂行する際にどのようなクオリアを感じていたか?そんな側面から面接を展開する時間を持つのも面白いかもしれません。それがクライエント自身が、意味ある作業の遂行文脈を思い出すための一助になるかもしれません。

クライエントが、作業遂行時のクオリアまでを楽しめるような援助をしたいものです。












20101221

その気になるということ・・・




七福神は、いつも皆で笑っています。しかしこの七人の神様は、それぞれ性格も、考え方も全く違う七人なんだそうです。「おまえは、俺と全く考え方が違うけど、面白いやつだな~」と笑っているのだそうです。自分と同じ考えを持つ人を味方とみなし、違う考えを敵とみなす・・・これが最も不幸なことだと・・・異物を受け入れて、それでもなお笑っている。そんな状態が幸せなのだそうです。

正月の餅を神様にお供えする理由を御存知ですか?神様の一番の好物は、”人の和”なのだそうです。家族みんなで、息をあわせて汗を流しながら餅をつく・・・そんな家族の和が神様の一番の喜びなのだそうです。

僕の実家は会津の田舎です。大晦日は、朝から鶏ガラを煮ます。会津の年越し蕎麦は、鶏とゴボウでだしをとります(絶品です)。朝から一日かけて、鍋の前でアクを取りながら、ゆっくりと一年を振り返ります。大晦日の夜は、普段使用していない奥座敷に家族全員が集まり、お膳を囲みます。メニューも毎年決まっています。元旦は蕎麦、二日は餅、三日はトロロと決まっています。毎年新年の始まりは、恒例の作業を通して新年を実感するのです。

今は、妻の仕事の関係などで、年末年始は郡山で過ごすことが多くなりました。でも僕は郡山でも、やはり大晦日は朝から鶏を煮ています。台所で椅子に座り、鍋の様子を時々見ながら、本を読んだりしながら、ゆっくりと一年を振り返るのです。

年末年始だけではありません。入学式や卒業式など、人は様々な恒例行事を経験します。その全ては、決してしなければならない義務はありません。入学式なんてなくても、ましてや大晦日に鶏を煮なくても誰も困らないはずです。しかしこれらの作業は非常に大切な作業です。人は、色々な節目に、”その気になる”作業が必要なのです。川のように流れるナラティブに、定期的に楔を打ち、自己の認識をより組織化するのです。それが未来の活力や、過去の肯定や整理につながるのです。

今年からウチの職場は、年末年始稼動します。去年は、仕事収めの前日に、クライエント皆と年越し蕎麦祭りを行いました。朝からクライエント・スタッフ皆で分担して、蕎麦を打ち、ダシを作り、クライエントに配り、嚥下障害のあるクライエントには、ダシにトロミを付けて、クライエントやスタッフ皆で大騒ぎでした。院長はサプライズで大量の天ぷらを差し入れしてくれました。でも今年はそれも無理そうです。作業療法室の大掃除もできません。日々の掃除の最中に、大掃除を分担して行っています。今年の僕は、鶏ガラを煮ることができないかもしれません。二日の餅も、三日のトロロも同様です。クライエント達が、昨年を振り返り、新年の訪れを愛でることができるような関わりを是非心がけたいと思います。

人間は、節目が必要です。恒例の作業が必要です。日々の研鑽の褒美として、時には何もしない時間も必要です。

その気になる環境や作業が必要なのです・・・

20101219

142,000,000の理由・・・








マイバッハ・ランドレー。なんとこの車、1億4200万円です!!!

ボディ・エンジン・内外装に使われる素材が高級なのは勿論、最高のクラフトマンが全て手作業で仕上げてくれるこの車は、オーナーに至極の空間・時間・満足度を与えてくれます。

しかし、本当の素晴らしさは、オーナーとマイバッハ社の協業過程にあります。ショールームでオーナーは、全て自分の目で見て、触れて、素材や色を決めていきます。それだけではありません。本当にオーナーの希望通りに作業が進んでいるかどうか?希望通りの仕上がりなのか?完成前にドイツ本国にオーナが出向き、経過の確認と希望の修正を行います。

マイバッハは、その車としての完成度だけでなく、全て自分の意思で決めて、希望通りに仕上がったという満足度がオーナーを幸福へと誘うわけです。




私のクライエントのSさん。先週2ヶ月の入院生活を経て、自宅へと退院しました。彼はまだ若く、仕事への復帰や家族との関係を再構築するべく毎日協業を行ってきました。

退院前日、初回評価・再評価・最終評価時に、ADOCによって意思決定したPDFを3枚並べて入院生活における作業療法を振り返りました。5段階の満足度の相対比較は勿論のこと、実際のスキルや心理面の変化、今後の生活の展望などをゆっくりと話し合いました。

初回の意志決定、再評価時の目標修正、最終評価時の振り返りをすることによって、彼は、自分の変化を改めて言語化して確認できました。そして、自分の大切な作業が、大切であることを改めて認識することができたとのことです。

作業療法は、クライエントが主体的に取り組めることが理想です。それは、介入初期の目標設定にクライエントがしっかりと参加することだけではありません。どんなに意思決定をクライエント自身が行っても、病院という環境で患者という立場で、日々の作業に従事する中、容易にその主体性は削がれてしまいます。自己の大切な作業が再び遂行できるように、目標設定から達成まで、クライエントが主体性の元に、継続的に作業療法に参加できることを支援することが大切です。

僕はいつもクライエントに、自分の取り戻したい作業と、その取り戻したい理由を感じてほしいです。少しずつでも前に進んでいる感覚を味わってほしいです。協業過程を振り返ることによって、自分の大切な作業が、もっと大切に思えるような作業療法がしたいです。肯定的な循環の中で、自分が決めた作業を遂行できる幸せを感じてほしいです。ADOCは、目標設定時の意思決定だけでなく、作業療法の協業過程を振り返り、新しい作業遂行文脈を客観的に捉えて、強化できるツールであることを改めて感じました。




マイバッハは、全ての工程や協業の過程を振り返り、確認作業を行ってから納車されます。納車当日、マイバッハのトランスポーターは、オーナーの指示した場所・時間に、確実に世界に1台だけのマイバッハを届けます・・・




どこまでもクライエント中心なのです・・・



20101217

直面(ひためん)の表情は・・・




能面には約250種類の顔があるそうです。般若や翁は非常に有名です。その多様な面で、人間の様々な感情や立場を表現し、物語が演じられます。

その中でも、この小面(こおもて)は特別な面です。この面は、喜怒哀楽全ての感情を表現する面なのです。おそらくその造形も非常に熟練した技術を必要とするのでしょう。




今日入院してきた私のクライエントSさん。本人の大切な物を持参してもらうように、事前に御家族にお願いしてありました。家族から布に包まれた荷物を渡されて、ゆっくりと包みを開けると、一瞬驚いて表情が固まってしまいました。

中から出てきたのは、小面でした。その表情は、確かに見る角度によって、喜怒哀楽の全てを表しているような、複雑なそれでした。なんとSさん自身が趣味で長年彫り続けている作品の一つなのだそうです。

正直最初はSさんが彫ったものとは到底信じられませんでした。あまりにも素晴らしく、そして生きているようなその表情は、伝統工芸師の仕事を思わせる領域でした。

Sさんは現在意識レベルがⅡケタ。声掛けに対して開眼はするものの、時々追視が見られる程度の状態ですが、この小面を手渡すと、静かに長い時間角度を変えながら眺めていました。




これから私との作業療法が始まります。心と身体を共振させるような協業をぜひ行いたいものです。



クライエント達は、小面を着けながら生活しているような気がしました。それは、”患者”という役を演じるための面です。喜怒哀楽は当然表現されていても、それは素顔(直面:ひためん)ではありません。どんなに笑っていても、小面の笑顔は、患者という役の中でのみ意味を持つ笑顔なのかもしれません。

僕はクライエントに、自分の価値ある作業に気付いてほしいです。遂行できるようになってほしいです。患者という舞台で、小面の笑顔を追求するのではなく、自分という役を演じる舞台に戻るための情熱を取り戻してほしいです。小面の笑顔の下に、本当の笑顔があることに気付いてほしいです。



そのためには、どうしても作業療法が必要なのです。







追伸:

先日お伝えした、さんのクライエント、認知症のさんのタイルモザイクが完成しました。春の柔らかい空気の中に佇む3羽のメジロが優しそうです。

入院当初、不穏が強く、いつも興奮していたGさん。今日は、この作品を持て余すように抱えながら、さんと共に病棟の中を車椅子で周って、スタッフや他のクライエントと楽しそうに作品を眺めていました。僕に写真を撮れと何度も指示し、数え切れないほど僕はシャッターを切りました。Gさんは、他のクライエントからの賞賛の中で、何度も笑っていました。何度も泣いていました。

老年期のクライエントは、アイデンティティを構成するような作業から一線を退いていることが多く、どんな作業で時間を埋めるのか?そしてその作業が、自分の所属する環境下で、そんな意味を持つのかが非常に大切です。

僕はどんな状態のクライエントでも、第4欲求である”承認欲求”までは階層の底上げが可能であると考えています。どんなクライエントでもです。

僕達作業療法士は、最もフレキシブルな環境因子たるべきなのです。











20101213

過去・現在・未来を繋ぐもの・・・



昨日は福島県の学術集会でした。ウチの後輩達も堂々と発表していて頼もしかった!
しかし全演題数の7割がウチの法人からって・・・・皆でOT盛り上げようよ~^_^;
でもステキな出会いもありました。福島市でOTをしているTさん。すごく作業療法を大切にしていることがバシバシ伝わってきて、同じ会場にいてとても楽しかったです。ぜひ今度呑みましょ~(^.^)


僕の自慢の後輩、Kさんの担当する認知症のGさん。入院当初は興奮が強く、頻回に転倒を繰り返していました。嚥下障害も残存し、PEGから栄養摂取しているGさんには、食事の楽しみもありません。言語でのコミュニケーションも難しく、筆談もできません。険しい表情で毎日を過ごしていました。

昔は左官業を行っていたGさん。Kさんは何とかそこから作業に結び付けたいと色々な工夫をしていましたが、Kさんの努力はその全てが彼に拒まれてしまっていました。

介入の糸口がつかめずに途方にくれるKさん。でもここがKさんのイイ所!絶対に諦めません。タイルモザイクから作業導入に繋げたいと、GさんとOT室にやってきました。

まずは目地の混ぜ方をGさんに教えてもらうことから始めました。Gさんも元左官職人!難易度も低く、効力感も得られるこの作業を毎日積極的に行い、少しずつ関係ができてきました。

次に20cm×20cm程度の小さい作品に二人で取り掛かりました。そのころには、Gさん自身から、デザインのアイデアが提案されるようになり、カワイイ紅葉をモチーフにした作品が完成しました。

その後、少し大きなチューリップのモザイクを作り、現在は、40cm×60cmくらいある大作を製作中です。興奮が強く、いつも落ち着かないGさんは、いつの間にか穏やかな表情で毎日を過ごすようになり、いつもKさんとの協業の時間を楽しんでいます。

今日は月曜日。昨日は休みでした。今朝KさんがGさんの部屋を来室すると、不鮮明な発話で、「昨日は何でこなかったんだ?」と質問してきたのです。

Kさんは泣きそうな表情で僕の元にそれを報告にきてくれました。

曜日の感覚も分からず、記憶も曖昧なGさん。過去とのつながりの大部分を失い、"今”だけに生きてきたGさんに、自分の大切な作業を媒介にして、再び未来への期待や希望といった光が差し込んできました。今製作している大作が完成したら、「ちゃんと飾りたいんだ」という語りも聞かれました。

担当のPTさんが言った、「Gさんはタイルにはまってから普通のおっちゃんになった!」発言も面白かった!




作業選択のプロセスにおいて、上手く協業関係を築けないクライエントは沢山います。しかしそこで介入内容を、ADLや機能訓練のみに限定してしまうことは作業療法士の諦めです。しかもそれは客観的には成立してしまうので、自己批判的視点を持つことも難しいかもしれません。

作業をすることで人は健康になれる!その言葉を、単なるOTの象徴的意味合いで使用するのではなく。実践し、結果を出す!そんな後輩の頼もしさに嬉しい気持ちになりました。





20101210

雪花に寄せて・・・



僕が子供のころに比べたら、随分降雪量も少なくなりました。昔はかまくらを作りたければ、ただ雪の壁を横に掘ればすぐに完成!今は沢山雪を積み上げなければかまくらは作れません。

しかし、僕のおばあちゃんが住む西会津は今でもかなりの積雪が見られます。今年ももうすぐ雪花が見られそうです。

朝起きると、家中の暖房を入れます。除雪車が道路の雪をキレイに片付けてくれますが、その雪は道路の両端に追いやられます。車で出勤するためには、その雪を片付けなければいけません。

その前に、玄関から道路までの導線上に積もった雪を掃除して、道を付けなければ歩けません。車のガラスは凍り付いていますから、出発の20分前にはエンジンを始動しなければいけません。

いつ大雪による渋滞が発生するかわかりませんから、ガソリンは、半分減ったら満タンにしておかなければ危険です。起床から出勤までの作業形態が、季節によって全く別物に変化します。



作業療法士は、クライエントにとって大切な、意味ある作業を再び遂行できるように支援することを本分とします。しかし作業は、季節や場所・遂行する理由など、様々な要素が変化することでその形や求められるものが変わります。だからこそ作業は立体的な物語と共に共有することが必要です。



もうすぐ雪です。クライエントに厳しい身体制御を要求する冬がやってきます。しかし、この冬の厳しさの中、クライエント達は長い年月を生きてきました。この厳しさの中でも、自分の大切な作業を楽しめる心を持っています。物語を持っています。


そのことにまたクライエント自身が気付けること・・・実現すること・・・


僕達の見つめるものは何も変わりません・・・

20101208

楽しいことをすること・・・・することを楽しむこと・・・・




今年ももうすぐ終わります。福島はとても寒さが厳しく、いよいよ本格的な冬に突入です。昼休みに外に出たときには、朝から降り続く雨の降り方が直線的でなく、猪苗代からの冬風に不規則な揺らぎを見せていました。まだ雪とは呼べない形態でしたが、おそらく今週中には初雪が降りそうです。

今年はとても忙しい年でしたが、とても充実した年でもありました。ADOCへの参加、臨床業務、講演、学会準備、子育て、遊び、どれもとても楽しくあっという間に1年がすぎました。

僕は大好きな作業で、時間の大部分を埋めることができていたと思います。でも好きなことをしたから充実できたのではなく、”することを楽しむことができた”から充実していたのだと思います。

作業療法士は、クライエントの大切な作業を共有し、再びその作業ができるようになるための支援を行います。しかし大切な作業を、どんな感情のもとに遂行できるようになったのかが重要だと思います。それが意味ある作業が、もう一度”意味ある作業”になるために必要なことなのだと思います。今日のMOHOの勉強会で、ウチのメンバーとディスカッションしていたときに改めて思いました。

みんないつも研鑽の時間と空間をありがと~!

同期するということ・・・




あなたの見えている世界と、彼女の見えている世界は、まるで違うかもしれません。



あなたの丁寧な挨拶は、彼女を混乱させてしまったかもしれません。



あなたが友好的にした質問は、彼女の効力感を損なってしまったかもしれません。



あなたの発信した情報は、彼女の防衛規制を発動させてしまったかもしれません。



あなたの立ち方は、彼女を緊張させてしまったかもしれません。



あなたの最後の感謝の言葉は、彼女の心地いい時間の連続性を遮断したかもしれません。



クライエントに同期してください。その為には知識が必要です。技術が必要です。



でも、何よりも、あなたが、あなたの目標にクライエントを導こうとせずに、クライエントの幸せを願い、そのために必要な洞察を絶えず続けて、自身で表現し続けてください。そうすれば、自分でも気付かないうちに、あなたは大切な介入をしているはずです。大切な作業を協業しているはずです。



今日、僕が君に伝えたかったことはそういうことです。
時間がなくて上手く伝えられなかったから、今度ゆっくり話します。



君の情熱がクライエントの幸せへと昇華されていくために、必ず必要なことです。



僕達の幸せとは、クライエントが幸せを感じることです。自分の推測や目標通りに、客観的現象が変化することではないのです。君はまだ若いから、実感を伴う理解をするのに少し時間が必要かもしれません。でも考え続けるのです。悩み続けるのです。自分の成果を疑問視し続けるのです。






それがクライエントに対する誠実さなのです。

20101204

足跡

みなさん、お久しぶりです。

最近はかなり忙しくさせてもらっており
全然更新できませんでした・・・・・


12月5日郡山健康科学専門学校で
平成22年度 現職者選択研修
~医療機関における老年期障害作業療法~
の講義をします。


これが終わったら改めて更新させていただきます!